研究ノート

塩崎太伸

日記帳のような空間──《長野須坂・ロングハウス》

初出:新建築住宅特集, 2015.4

 

 

 

長野の県道沿いに建つ2世帯住宅。車通りの多い東側の県道と、幅の狭い北側の道路に敷地は面している。けれど、気心が知れた近隣の人たちが自然と敷地を訪れる地域だったから、敷地の全方位に開いたときの効果に期待するより、将来的に庭とすることが想定されていた敷地の南側を最大限に信頼して、そちらに開いて自然に人が集まるような空間的設えをつくることとした。南傾斜の屋根は、長野の雪を溶かすためと、将来ソーラーパネルを取り付ける場合の最適角度でもある。

建主からは「カフェのような」空間が望まれた。そう聞いて考えたのは居心地のことだった。カフェ(あるいは銭湯?)では、そこに居るおのおのの目的やコーヒーを飲み干すタイミングは違えど、同じ空間を共有してくつろいでいる。それぞれがそれぞれのペースで空間に出入りして、お互い少し離れた場所に居ることは感じながらも強い干渉をしないで済む距離感である。

大地から斜めに延びた登り梁と三角形壁のつくるトラス状の架構が短手方向の水平力に、スチールブレースが長手方向の水平力に抵抗している。建物の外に水平抵抗要素を追い出したことで、内部の壁を減らし長大なワンルーム的空間を実現している。また、1,2階ともに階高を抑え、高さが5mを下回るヴォリュームとしている。これだけ空間が長いと、日常の事柄やちょっといつもと違った事柄が、いろんなところでポツポツと起こる。そうした事柄は個人と家族の記憶に建築空間とともに刻まれてゆく。そんな穏やかな刻々とした時間の流れに空間が沿うような設計にしたいと思った。日々の思い出が記された夏休みの日記帳のような空間である。そしてその定着の手助けとなるように、日常の空間をしっかりと対象として、日常の事柄とセットで捉えられる設えのつくりかたを、大きな空間の中でできることとして模索した。

世界各地域のロングハウス形式では、プライバシーが確保された各室に対し、その外側の細長い空間、さらに外側の外部路地が公共スペースとなって、井戸端会議や共同作業のスペースとなる。ここでは、居住スペースのエリアは2世帯で分かれているものの、それらは引戸で緩く分けられて、空気的には繋がっている。2階のロフトは東の子世帯側からしかたどりつけないから、親世帯上部のロフトはどちらの世帯のスペースなのかよく分からない場所である。そうしたひと繋がりの長いカフェ・銭湯的空間のなかに、おおよその場所を規定することに寄与しそうな30度の角度をもった三角形の壁が浮遊して連なる風景がつくられている。山並みとか家並みとか言うような、風景を捉えて心に定着させるための要素を、家の中の空間に配したかった。

南に面したおよそ22m幅のテラスでは、夏には梁間に簾をかけたり網を張ってヘチマを育てたり、秋には柿やハンモックを吊るしたりと、室内と連続したさまざまな活動が行われている。